2025年新年の挨拶

令和7年1月1日

伊藤大使

駐チリ共和国日本国大使
伊藤 恭子(いとう たかこ)
 

 2025年の年頭にあたり、謹んで新年のお慶びを申し上げます。
 
 昨年2月に発表された日本の対中南米外交イニシアティブでは、海洋やジェンダー平等などの重要性を増すテーマで中南米諸国との連携を強化し、多様なネットワーキングを駆使した外交を展開することが打ち出されました。日本とチリの間でも、二国間関係が深化した1年となりました。ロペス公共事業大臣の訪日(3月)やウィリアムス鉱業大臣の訪日(6月)、伊藤環境大臣(8月)や参議院議員団(8月)のチリ訪問、「日チリ鉱業分野における官民合同会議」(5月、サンティアゴ開催)、「第10回日・チリ政策対話」(6月、東京開催)など、様々なレベルで意見交換が行われました。開発協力の分野では、これまでの両国の協力の柱であった防災分野のみならず、ジェンダー平等など新たな課題も加えた枠組みのJICA三角協力プロジェクトが開始されました。天文学の分野では、昨年4月、サン・ペドロ・デ・アタカマ市の近郊チャナントール山頂に建設され、世界一標高の高い場所(標高 5,640メートル)で運用される東京大学アタカマ天文台(TAO)望遠鏡サイトの開所式が行われました。本年は同天文台で世界最高水準の大型赤外線望遠鏡による観測が本格的に開始されるところ、国立天文台が参画するALMA観測所とともに、銀河・惑星系の起源の謎などの天文学上の重要な研究に関する成果が期待されています。また、情報通信・IT、環境・気候変動、グリーン・エネルギー等の分野においても、民間企業の参画や都市間連携の下で複数のプロジェクトが進行しています。更なる進展を図るべく、本年の開催が予定されている日・チリ科学技術協力協定の下での協議を含め、今後の協力等の機会を捉え、引き続き日チリの官民で一丸となって取り組んでいきたいと思います。さらにジェンダー関連では、昨年3月に「女性、平和、安全保障」(WPS)に関するラウンドテーブルをIWFと共催し、11月には女性・ジェンダー平等省との共催で、「第1回ジェンダー暴力撤廃マンガ・コンテスト」を開催しました。文化関連では、「現代・木彫・根付」展、カレンダー展、書道ワークショップ及び日本人ピアニストによるピアノ・リサイタル等を実施すると共に、チリの諸団体が開催する日本関連文化行事や武道の大会にも参加いたしました。今年も多くの方々に日本文化に親しんでいただける機会を提供できるよう取り組んで参ります。
 
 昨年は、北はタラパカ州から南はロス・ラゴス州まで、チリ国内の13州を訪問し、地方政府や地元経済関係者との意見交換、日系企業による投資案件の視察、日・チリ経済協力案件の実施、日本についての発信等を行いました。各地で、また思いもかけないような場所で、親日家、知日家の皆様にお会いし、我が国への信頼と期待を改めて実感いたしました。特に、これまで日系企業の皆様が様々な困難に直面しつつ、長い時間をかけて築いてこられた両国の絆に改めて敬意を表したいと思います。日本とチリの地理的距離を超えて、今後もますます両国の人的交流・経済交流が発展するよう、幅広い分野で協力や意見交換を続けていく所存です。
 
 また、昨年はチリで活動する日系企業の環境改善のための支援を強化し、特に治安及び査証に関連する課題に対しては、チリ政府要人への働きかけや事務レベルでの申入れなどを継続的に実施しました。これらの課題については、一部は改善されましたが、未だ課題として残っているものもありますので、早期解決に向けて今後も尽力して参ります。特にサンティアゴやバルパライソ等における治安の悪化が懸念される中、本年も在留邦人及び邦人旅行者の皆様の安全を確保すべく、当館としても最善を尽くして参る所存です。
 
 昨年の元旦には能登半島で大きな地震があり、多数の犠牲者と甚大な被害が発生しましたが、チリ国民の皆様からいただいた被災者の方々への励ましやお見舞いのメッセージに改めて感謝申し上げます。その一方で、2月にはバルパライソ州で大規模森林火災が発生し、甚大な被害がもたらされました。ビーニャ・デル・マル国立植物園では、日・チリ両国の友好のシンボルである桜の木や、グリーン・レガシー・プロジェクトにより広島の原爆投下を生き延びたイチョウ等の種子から育てられた木々も大規模火災の影響を受けましたが、多くの日系企業が支援金を拠出された他、10月には、被災地の復興の一助としたいという願いをこめて、バルパライソ日系人協会と当館が共催し、一部の生き延びた桜の木の下で「お花見2024」を開催し、1,800人のお客様が来場されました。災害を乗り越えて、両国の国民の絆が一層強まったと思っております。
 
 昨年12月、日本の「伝統的酒造り」がUNESCOの無形文化遺産に登録されましたが、日本産酒類の対チリ輸出に関して、当館は様々な機会に日本産酒類の普及促進イベントを実施いたしました。11月に開催されたカタドール・ワールド・ワイン・アワードでは、62種もの日本産酒類が受賞する快挙を達成し、チリの約20のレストランで日本産酒類の提供が開始される等、業界関係者のご努力により、2024年はチリでの「日本酒」普及にとって飛躍の年になったと考えております。本年も、日本産酒類のみならず日本産食品を多くのチリの方に楽しんでいただけるよう、積極的な取り組みを進めて参ります。
 
 さて、2025年は4月13日から約半年間、大阪・関西万博が開催されます。今回のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」であり、いのちに向き合う世界初の万博です。いのちをテーマに掲げる大阪・関西万博の意義は、国際社会の分断と対立が続く状況下にあって、今一度、世界の多様性を認識し、世界中すべての人の「いのちの大切さ」や「幸せな生き方」を考える機会を提供することで、人との繋がりを取り戻すきっかけとしての役割があると考えています。
 そして万博はいつの時代も人々が未来の技術に触れて体験する場として重要です。今回も地球規模のさまざまな課題に取り組むための新技術や新システムによる「未来社会の実験場」をコンセプトに掲げていますので、日本そして世界中から来場される方々、特に次の世代を担う子供たちにとって、将来を考え、夢と希望を持って明日へと踏み出していく、またとない体験となることを期待しています。
 また、大阪・関西万博は、世界との交流を深め、日本の魅力を世界に向けて発信する絶好の機会でもあります。万博を契機に、世界中から集まった方々が日本の様々な都市、あるいは地方、まちの魅力を発見し、地方創生、更には日本創生にもつながっていく機会となることを期待しています。
 チリのパビリオンでも様々な催し、展示が計画されていると聞いております。これらが成功裏に実施され、日本だけでなく世界各国の参加者がチリのことを知る機会となること、さらに、万博を通じて、日・チリ両国の良好な関係が益々強化されることを心から期待しています。
 
 本年はチリの大統領選挙の年ですが、引き続き、日本は基本的価値を共有する戦略的パートナーとして、チリとの二国間関係を深化させ、国際社会の諸課題に対処するためにハイレベルでの対話の継続を追求し、一層緊密な協力関係を実現していきたいと考えています。
 
 本年の干支である巳は、再生と誕生のシンボルとされています。様々な課題や困難に直面しても、それらを乗り越えて再生・誕生を果たし、さらなる成長や発展を遂げられる1年となりますことを心より祈念申し上げます。

 
令和7年(2025年)1月
チリ駐箚日本国特命全権大使 伊藤 恭子